会長挨拶
2021学会年度から、4年ぶりの会長職を務めることになりました。本学会は1999年に、文部省・労働省・通商産業省のいわゆる三省合意にもとづいて、大学等での実社会と連携した就業体験による教育活動としてのインターンシップを促進する実践的活動と並行し、その社会制度としての在り方や多様な展開の実態について研究を深め、また研究交流を進める組織としてスタートしました。
学会創設からはや20余年が経ち、人であれば成人です。高良和武初代会長らの第一世代のインターンシップに対する熱い想いと四方を見渡す好奇心を持った研究活動をひきつぎ、ひろげ、いま学術の世界のなかで一定の研究領域を提示できたのではないかと考えています。しかし、研究領域が見えてきたことが、ただちに豊富な研究成果の蓄積や研究者層の厚みにつながるわけではありません。研究をリードする核となる研究集団の形成が求められています。
特にいま、インターンシップという用語が定着普及した反面で、その多様化が進み、教育コンセプトと採用コンセプトの分離、長期インターンシップとワンデーインターンシップの混在など、さまざまに「共通感覚」のずれが生じています。インターンシップの転換期がきたといえるでしょう。こうした時こそ真理を探究する研究が求められます。ここでの研究とは、自らの美しい実践だけを愛でるのではなく、多様な現場を俯瞰しながら実践を省察することです。つまり広い視野から、多様なインターンシップや関係する活動の中に自らの実践を相対的に位置づけ、諸々の活動要素を比較考量することが大切なのです。
私は、学会誌や学会大会、各地での研究会などの本学会の活動が、研究をリードする人材が湧き出る場になっているかどうか、それをしっかり吟味し、そのポテンシャルを高めていくことが必要だと考えています。そのために学会員のみなさまだけでなく、まだ学会に参加されていない方にも多くの場を用意していきたいと思っています。当面の課題を3つあげておきます。
第一には、繰り返しますが、インターンシップを広い視野から理解することです。これこれの活動や経験は「インターンシップ」と呼ぶべきでないなどといったメッセージが、いろいろな政策議論で出されたりします。しかし、そうした活動に関わる当事者にあっては、それもまた「インターンシップ」です。インターンシップと呼ばれていない活動も、インターンシップと同等以上の機能を果たすことがあります。研究年報第24号の特集 「職業統合的学習 (Work Integrated Learning : WIL)」も、そうした多様性を包容する思想に基づいています。資格取得のための実習も、それぞれの専門領域で固有の展開をしていますが、そこに通底する機能的な価値は、インターンシップにも当てはまると考えられます。実習の段階性や指導者の関与など、資格取得の実習から多くを学ぶことができます。他方で、ボランタリーに参加する学習者の視点などは、本学会で多く扱われる資格要件以外のインターンシップ等の研究から、資格実習等の研究に示唆を与えることができると考えます。広い視野から学ぶ、視座の交換ということを課題の第一としていきたいと思います。
第二には、それと関連した、インターンシップを担う人材の専門性の理解と能力開発へのアプローチです。広い視野から学ぶことは、学術の界としての学校と職業現場である生活の世界とを学習者が往還するインターンシップ・WILにも通じます。その活動に関与する関係者にもまた、広い視野でみる力が求められます。インターンシップの現場を担う関係者はどのような人か、どこから来て、どのような力を発揮し学習者の成長を促していくのか。これらの問いが今後のインターンシップ・WILの充実にむけた重要な研究領域となります。
この研究領域は、本学会においては「汝自らを知れ」というギリシアの格言につながります。会員が自らを理解し、また相互にその理解を深めていくことが第三の課題です。本学会では、学術と職業の往還という研究対象をめぐって、その往還の現場で仕事をしたり、また学術サイドからそれを観察したり、職業や社会の現場から学習者を受け入れたり、様々な会員がいます。往還の現場にいるというだけで自ら往還ができるとは限りません。それぞれが、どのような知識と経験を踏まえてどこに「往還」をするのか、またさらなる専門性の向上のための方途は何か、会員が相互に自らの経験を、学会という対話の場(アゴラ)に持ち込み、その問いを深めていくことが大切だと思います。
これらの課題を、みなさまと一緒に対話の場(アゴラ)で探究していきましょう。
▼「職業統合的学習(WIL)と学会のあゆみ」
(2022年8月27日 第23回大会「会長講演」)
https://youtu.be/EI6AQ67qAIo