第21回研究会
日時 | 平成30年4月28日(土) 13:30~16:00 |
場所 | 九州大学 文・教育・人環研究棟2F会議室 |
テーマ | 「職業統合的学習(WIL)とコンピテンシー」 |
13:00~13:40 開会挨拶・趣旨説明 吉本圭一(日本インターンシップ学会九州支部・支部長) 13:40~14:20 研究発表① 「大学文系の職業統合的学習とホワイトカラーの初期キャリア」 吉本 圭一(九州大学・教授) 14:30~15:10 研究発表② 「ビジネス分野における職業能力評価基準とコンピテンシー」 江藤智佐子(久留米大学・准教授) 15:30~16:00 コメンテータ 「企業におけるコンピテンシー・ディクショナリーの構築をめぐって」 古賀 正博(福岡中小企業経営者協会・常務理事) 16:00~16:30 総括討論 |
2018年4月28日(土)に九州大学文・教育・人環研究棟2F会議室において「2017年度支部役員会」、「九州支部第21回研究会」を開催しました。支部役員会では、中濱会員から全国大会の準備状況が報告され今後のスケジュールについて確認を致しました。加えて、同18年度の支部計画や運営体制が示され了承が得られました。
研究会では、吉本支部長から高等教育の質保証やキャリア・職業教育の展開を踏まえつつ、学校の学修成果が職業のコンピテンシーへ転換することは重要であり、それらを検証しながら職業統合的学習の展開について議論を深めたいとの趣旨説明がありました。
研究発表1の吉本支部長からは「大学文系の職業統合的学習とホワイトカラーの初期キャリア形成」と題し、日本における非資格系学部のインターンシップを振り返ったうえで短期に留まったことを課題視し、職業体験的学習の質的な転換を展望し、様々な学習形態を包含した職業統合的学習を提唱しました。また、学校でのガイダンス機能の充実や若者を円滑に社会へ送りだすシステムを俯瞰するなかで、その成功の対価として教育の高度化によって外部のステークホルダーとの乖離が生じたこと、この学修成果の設定と把握において初期キャリア形成段階を経て論じる必要があることを指摘し、卒業生における知識・技能の活用度調査では、教育の遅行性における優位性を指摘しました。
研究発表2の江藤会員からは、「ビジネス分野における職業能力評価基準とコンピテンシー」と題し、日本的雇用慣行とメンバーシップ型労働市場が職務内容を横断的・応用的になりコンピテンシー評価を可視化することが困難である中で、日本のホワイトカラー、特に事務系において広範で汎用的な職務能力を可視化する取り組みとして厚生労働省の能力評価基準に着目し、その成立過程を検討し可視化方法のプロセスについて発表いただきました。NFQの日本的方がモデルの形成過程を概観しながら事務系の職業能力評価基準は、先行するビジネス・キャリア検定における「知識」、「技能」を前提として3番目の要素として、「職務遂行能力(コンピテンシー)」が追加されたことに言及しました。しかし、同基準の活用目的が、人材育成、人事考課、採用時のチェックシートとして開発されため労働市場のみで学校とは接続していないこと、加えて、評価の客観性と精度を高めようとすればオーバーエンジニアリングし現場の実態と齟齬が生じたことを指摘しました。
研究発表3の古賀会員からは、「企業におけるコンピテンシー・ディクショナリーの構築をめぐって」と題し、実務の経験を踏まえて、コンピテンション・ディクショナリーの策定とプロセス、そして、策定したことによって生じた課題について発表いただきました。職能資格制度におけるホワイトカラーの生産性の低下が課題視され、スキルと実績の評価に基づいた①ヒューマンスキル、職務遂行としての②プロセススキル、専門知識・技術としての③テクニカルスキルの3つに分けたコンピテンション・ディクショナリーを策定したことについて説明がありました。しかし、現場では評価ツールが増える煩雑さ、スキルランクの言葉の齟齬などコンピテンション・ディクショナリーの弱点について言及されました。
以上3つの研究発表を受けフロアを交えて総括討論に入り、1) 古田委員からは、コンピテンションとは、それぞれの文脈で必要とされる能力であって能力とコンピテンシーは違う。2) 聞間氏からは、育成のための評価と採用のための評価は分けて考える必要がある。3) 新谷会員からは、教育実習での経験を踏まえ、学修評価と教員試験は違う、育てる領域はゴールによって違うのではないかとのコメントをいただきました。古賀会員からは、評価を行うに当たっては上司、部下など双方のコミュニケーションのあり方が重要であるとリプライされました。江藤会員からは教育の遅行性において態度・応用は、卒業論文、インターンシップが有効であると指摘しました。吉本委員からは、セクター、プログラムによって修得レベルが違ってくるが、学修成果で教育プログラムを作成し、学修成果が職業の世界で活躍できることがまさしくコンピテンシーであり、学修的アプローチを作成してみることは意味があると言及しました。この研究会を通して学校と産業界が相互に対話することの重要性を改めて認識いたしました。当日は、関東関西を含め29名の参加がありました。