学会会長 折戸晴雄・玉川大学客員教授
/株式会社玉川・オリエンタルコンサルタンツ総合研究所代表取締役
2017年度の会長就任にあたって、全国の会員の皆様にご挨拶申し上げます。1999年の設立以来、わが国のインターンシップの普及・促進に大きく貢献し、これまで、日本インターンシップ学会の礎を築き、日進月歩の発展を導いてこられました歴代の会長をはじめとする諸先輩方の志を受け継ぎ、すべての会員の皆さまのお力添えを賜りながら、本学会の更なる発展に向けて尽力して参りたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。
さて、設立趣意書において述べられていますとおり、本学会では、これまで、「学校教育の一環として据えて、インターンシップの健全な発展と普及すること」を主眼として、研究活動が展開されてまいりました。そして、設立から20年の節目を目前とする現在、産学官の新たな関係の構築など、グローバル化の急速な進展にともない、企業・団体組織や経営体を取り巻く環境の急激な変化への対応が迫られるなかで、わが国のインターンシップは、さまざまな分野において、ますます多様な仕方で独自の発展を遂げつつあります。
このような変化にともない、本学会において教育研究活動に励む会員の皆さまの専門領域も、近年、非常に広範囲に及んでいます。事実、ここ数年の全国大会では、会員の皆さま各々の専門領域の立場から進められた独創的・複合的な研究成果が数多く発表されています。このような傾向は、これからの本学会の発展の大きな可能性を示唆するものとしてとらえることができます。
しかしながら、そのためには、急速な研究・教育環境の変化に柔軟に対応できる会員の皆さま同士のネットワークの構築が不可欠です。本学会のますますの発展に向けて、研究者と実務者との交流、さらには、研究と実践の循環を促進し、研究と実践の実質化を図るための体制の整備が強く求められているのです。
それゆえ、新体制では、常任理事、理事、事務局の方々と協力して、各支部の強みを生かした魅力ある研究の成果を全国の会員の皆さまが共有できるオール・ジャパンの相互交流の機会を拡大するとともに、社会から求められる魅力的・効果的な実践を展開することのできる体制づくりに取り組んで参りたいと思います。また、本学会の更なる発展を実現するため、役員の方々の分担や業務の在り方など、これまでの学会運営を立ち止まって見直し、人的・物的な資源の効果的・効率的な活用を図ることも積極的に進めていく所存です。
本学会の更なる発展に向けたこれらの試みの実現には、何より会員の皆さまのご理解とご協力が不可欠です。広く忌憚のないご意見を伺いながら、会員の皆さまお一人お一人のより充実した学会活動を実現することのできる開かれた学会運営を目指して参りたいと思います。どうぞ、これまでと変わらぬご支援をお願い致します。
学会会長 九州大学教授 吉本圭一
本学会は、日本の高等教育におけるインターンシップ制度の導入・展開と歩みを一にして成長して参りました。私も、学会10年の節目で第二代の田村紀雄会長のもとでの学会組織と活動を引継ぎ、第三代会長となります。初代の高良和武先生はじめ諸先輩方が開拓されてきたインターンシップ研究10年の蓄積を踏まえて、学会員の皆さま、また地域や学校関係の皆さまとともにこれからの10年、20年のインターンシップ制度の設計に関わる総合的な学術研究活動を進めて参りたいと存じます。
いま、職業教育・キャリア教育に大きな社会的な関心が寄せられています。中央教育審議会では、「学校教育において、学生・生徒の社会・職業への円滑な移行を図るとともに、移行後も自立した社会人・職業人としてのキャリア形成を支援する」ことを基本課題として位置づけ、そのために「職業を明確に意識した教育に特に重点を置く」学校教育の再構築について、そして「インターンシップを義務づける」新たな高等教育の枠組み・制度にも踏み込んだ議論が行われています。
インターンシップを専門的に研究する本学会は、国内外でのインターンシップ制度の展開の実践事例を分析・検討し、また教育から職業への移行システムの現状の分析・診断を行い、インターンシップを要とする産学連携型教育の可能性やこれからの教育社会について理論的に論じてきましたので、そうした実践の問いにも十分対応しうるし、またそうすべき責任があると考えております。
また、本学会の特色となっている研究アプローチの多彩さの背景には、会員の社会的経歴や学術的バックグラウンドの多様性があります。経験とアプローチの多様さというのは、学会における共通言語によるディシプリン形成という意味では大きな課題・挑戦です。しかし、私は、こうした会員の多様性をどこかに収斂させることで「インターンシップ学」が成立するというよりも、産学連携教育という研究対象の特性からしても、むしろ積極的にその多様性を財産とすることでそれが成立するのだと考えています。
<学術>と<実践>の出会いと対話というのは、本学会にとって重要かつ大きな挑戦です。学術的な背景をもち実践に関わる会員もあれば、実践的な経験を吟味しそれを学術に繋げていく会員もあるわけです。会員それぞれが異なる世界へ飛び込み、あるいはそうした世界での経験を踏まえてまた自分の世界にかえり、それぞれを豊かにしていく、そうした往来・往還における「出会いと対話の場(アゴラ)」が、この学会であってほしいと願っています。
地域や教育機関でインターンシップなどの産学連携型教育に携わっている皆さま、また関連学会の皆さまと多彩な交流を進めつつ、学会の学術を鍛えていく所存です。どうぞ、学会の内外での活発な学術交流を推進すべく、みなさまのご協力、ご指導をお願い申し上げます。
学会会長 東京経済大学名誉教授 田村紀雄
本学会は、日本にインターンシップ教育がスタートした1990年代はじめ、この教育理念に賛同した大学や実業界の有志によって設立されました。すでに、欧米の教育現場では、かなりの歴史があり、一定の成果をあげているテーマです。日本では、ようやくこの10数年のあいだに注目されるようになりました。また、インターンシップ教育も大学だけにとどまらず、高校、中学その他の教育の現場にも急速にひろがりつつあります。それだけに、まだ、経験、理論、指導者もすくなく、本学会が大きな役目を果しています。
この学会の特徴は、産官学の個人や団体(学校や企業その他)が会員として参加し、互いに協力してインターンシップ教育を発展させようとしていることです。インターンシップの国内外の経験交流、担当教職員の指導力の向上、ホスト企業の受け入れ拡大、行政への文教・財政政策提案、カリキュラムの検討と評価など広範な問題の整理と解決のために取り組んでおります。このために、 年1回の研究大会、数ヶ月に1回の研究発表会のほか、学会誌やニューズレターの発行、ホームページの運営など多岐にわたる学会活動を実施しております。
本来教育とは世代と世代のあいだの知識、技能、情報等の移転ですが、社会が複雑、かつ高度化し、これらの移転に必要な制度(学校等)が細分化、また生産・サービスの現場が大規模化して、十分な移転が困難になっています。その上、この世代間移転に大きな影響をもってきた職人の世界、職業団体、地域社会も変貌をとげています。知識の一部だけが移転し、それにともなう技能、経験、仕事の協働性、精神的な連帯、責任感、職業倫理などが欠落しやすいことは、世界各国の共通の問題点でした。
書物や講義の上だけの知識の移転が、汗と肉体労働をともなう身体への刺激が欠落するため、仕事・労働のもつ社会的な意味を見落としてしまう傾向が、全人間的・全人格的な青少年育成をするうえで、幾多の課題をつきつけてきました。欧米では、すでにこの課題の解決の一端として一世紀におよぶ制度的なインターンシップ教育、CO−OP教育が広がっています。若い世代に全人間的な成長をうながし、強いては、日本の社会や産業を再生していくためにも、この教育のもつ意味はまことに重いものがあると考えます。
ひとりでも多く、一団体、一大学でも多く、この学会に参加していただき、日本の教育の将来をかためていくことに、ちからを合わせていきたいと願っています。
学会会長 東京大学名誉教授 高良 和武
始めに
これまでの学会設立準備委員会でのさまざまな議論を聞きながら、私が思ったことを少しお話したいと思います。私はやく30年、大学で研究と教育に従事しましたが、その後、やく20年は、研究施設や学校作りあるいは研究者の環境作りなどの仕事をしてきました。こういうわけで、教育の現場から離れて久しく、また自然科学の出身ですので、かなり見当違いの話になるかも知れませんが、ご容赦のほどをお願い致しします。
インタ−ンシップについては、高等教育改革の一環として、是非必要であると以前から思っておりましたが、ようやく本格的に始まろうとしているのは誠に喜ばしいことだと思います。 インタ−ンシップに関係のある制度としては、我が国にも、古くから学校教員、看護婦、臨床医など特定の職種について資格取得のための実習があり、また工学系の多くの学科では工場実習を必修または選択にしています。今回のインタ−ンシップの特徴の一つは、理工系のみならず人文系の職種を決めていない学生を対象にしていることだと思います。
現在、我が国で議論されているインタ−ンシップでは、多くの場合、産学協同の事業として考えられているように思います。これまでの産学協同は主に研究に関するものでしたが、インタ−ンシップは教育に関する産学協同です。学生に職業観、勤労観を身につけさせるだけでなく、産業人が学生にマン・ツ−・マンの指導をするという、現在の大学教育で失われている教育を取り戻すという重要な意義があります。 本来のインタ−ンシップでは、産業界とう言葉は、社会という言葉に置き換えるべきで、中央や地方の官庁、あるいはNPO、NGOなどの団体も、また国内だけでなく海外も含まれるものだと思います。産学協同よりも産官民学協同というべきかも知れません。
このようなことをいうと、現在、インタ−ンシップと取り組み、さまざまな困難な問題と悪戦苦闘しておられる方々から、"夢のようなことを"とお叱りを受けるかもしれません。しかし、インタ−ンシップはアメリカでは、すでに1910年ごろから、そしてより広範で徹底した形のインタ−ンシップが1960年ごろからアメリカやカナダで、行なわれているという現実があります。 例えば、インタ−ンシップは春や夏の休みだけではなく、一学期全体、またコ−オペラチブ・エヂュケ−ションといって、一年近く、あるは卒業までに数回行なうとか、また海外で送るというケ−スもあります。
インタ−ンシップが、これまで日本で広く行なわれなかったのは、社会構造あるいは文化の違いによるものと考えられます。しかし、この違いは小子化、終身雇用制度の崩壊、雇用の流動化などにより、急速に消滅しつつあります。 大学生は、自分の会社だけのものではなく、次の世代を担う社会共通の貴重な財産であるという認識に立ち、大学教育に社会が、とくに地域社会が協力するという意識改革が産業人、社会人のみならず大学人において行なわれることが、インタ−ンシップの将来を握る鍵であると信じます。 日本のインタ−ンシップは始まったばかりで、多くの困難や障害が待ち受け、錯誤試行の連続でしょう。 明確な理念のもとに、できることから一歩づつ、進むことが大事だと思います。