日本インターンシップ学会会長
吉本圭一
本学会は、この十年間、日本の高等教育におけるインターンシップ制度の導入・展開と歩みを一にして成長して参りました。これまでの研究蓄積と学術交流の広がりを踏まえ、これからの10 年、20 年のインターンシップの発展と理論の深化を期して、学会の歩みを振り返る記録をとりまとめることとしました。
いま、キャリア教育・職業教育が大きな社会的な関心を集めています。平成23 年1 月の中央教育審議会答申では、「学校教育において、学生・生徒の社会・職業への円滑な移行を図るとともに、移行後も自立した社会人・職業人としてのキャリア形成を支援する」ことを基本課題とし、「職業を明確に意識した教育に特に重点を置く」学校教育の再構築に向けて、とりわけインターンシップを教育の中核に据えた高等教育の新たな枠組みの必要性を提起しています。
インターンシップを専門とする本学会では、国内外のインターンシップ展開の実践事例を分析・検討し、また教育から職業への移行システムの分析・診断を行い、さらにこれからの産学連携型教育や教育社会のあり方について学術的に論じてきましたので、そうした実践の問いにも十分対応しうるし、またそうすべき責任があると考えております。
その責任を果たす土台となるこれまでの歩みについては、この冊子で、学会創設時の記録やメンバーの回顧や、研究年報や研究大会、地域支部の活動記録、現在の学会員アンケートの結果分析等を含めてお示しします。ぜひ、みなさま、それぞれの立場からお読みいただき、今後の学会とインターンシップの発展に向けてのご意見をお寄せいただき、またそれぞれに活発なご議論等を交わしていただきたく存じます。
インターンシップは、一面では、日本の高等教育においてほぼゼロからの出発でしたから、学会創設時の理念構築や組織的な活動にかかる苦労談などは、高等教育研究の貴重な歴史資料だと考えます。他方では、従来から展開されてきた医師のインターン、工場実習、教育実習、さらには企業内での研修など、さまざまの就業体験・職場体験型学習が、新たなインターンシップのモデル設計において検討・参照されてきましたので、それが本学会の特色となっている研究アプローチの多彩さにつながっています。会員の社会的経歴や学術的バックグラウンド、研究アプローチの多様さは、インターンシップ学の確立という意味では大きな課題・挑戦です。しかし、私は、産学連携教育という研究対象の特性からすれば、そうした多様性はむしろ財産であると考えています。学術的な背景をもち実践に関わる会員もあれば、実践的な経験を吟味しそれを学術に繋げていく会員もあります。会員それぞれが異なる世界へ飛び込み、あるいはそうした世界での経験を踏まえてまた自分の
世界にかえり、それぞれを豊かにしていく。本学会が、そうした往来・往還における「出会いと対話の場(アゴラ)」を提供できるようになりたい、と願っています。
最後になりましたが、学会として十周年の節目を振り返るために田中宣秀会員を代表とするワーキンググループを編成してさまざまの活動を企画・展開してまいりましたので、関係各位の労をねぎらい、ここに記しておきたいと存じます。
「巻頭言」より